カルチャー加藤くんの文化活動

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初デートで女の子の料理に虫が止まったらどう対応するのがベターか?(by穂村弘)

f:id:sasasava:20200224201534j:image(穂村弘さんのオススメのエッセイ)

◼️はじめに

ぼくは歌人穂村弘さんのエッセイが好きで、エッセイ集の半分くらいは読んでいる。なぜ好きなのかというと内容がすごく内向的で細かくて怖がりで、同じ性質を持つ僕としてはすごく共感できるからだ。どんなテーマを扱っているかというと、電車のホームで並んでいる時先頭だと、誰かに押されるんじゃないかと思って少し踏ん張ってしまうとか、子供が苦手で子供と遊んでいる時の自分の態度は合っているか気になるとか。ただそういう日常で感じるささいなことだけってわけじゃなくて、その先の、日常をぺりっと剥がしたときの急な怖さとかまだ言葉にして理解していないような感覚をわからせてくれる。それがとても面白い。そんな穂村弘さんのエッセイの中で特に印象に残っているエピソードがある。ただそのエピソードがどのエッセイ集にはいっているか忘れてしまって、図書館に行って探したのだけれど見つけることができず、、すみません、、。なのでぼくの記憶と混ざって若干ホントの話と違う部分があるかもしれないが、そこはご了承いただきたい。そのエピソードとはこうだ。

◼️初デートで女の子の料理に虫が止まったらどうするか?

まず女の子と初デートでごはんを食べに行く。2人で会うのははじめてで付き合ってはいないという関係性だ。その女の子と同じ料理を頼んで食べている途中、その女の子の料理例えばハンバーグだとしようそのハンバーグにハエが止まって、トトトトトっとハンバーグ上を歩きプーンと飛んでいった。その時どう対応していいのか頭が真っ白になってしまうというのだ。そしてその状況がとても恐ろしいというのだ。もしどちらも料理に口をつけていなければ「あハエ止まったね。おれのと交換するよ、こっち食べな」とスマートにその危機を回避できる。しかし2人とも食べかけ。それにハエが止まったからといってその店が悪いとも言い切れない。交換してもらうのも躊躇われる。この絶対絶命のピンチにどう対応するのがベターか?という話だ。

わかる。とてもわかる。その状況になったことはないのにヒリヒリするほど理解できるし恐ろしい。ぼくはこの話を初めて読んだ時、口をパクパクさせ空気だけヒューヒューと漏らし引き攣った顔で必死に笑顔を作って狼狽しまくる自分が頭に浮かんだ。実際にそれをやったらだいぶまずい。このエッセイはどうするのがベターか?というところで終わっていて明確な「答え」は書かれていない。ここはひとつ「自分なりの答え」を出しておきたい。そう思ったぼくは、友人にこの状況をどうするか?方々聞いてまわり、ああこれだなという「自分なりの答え」をはじき出したのである。次の項はその友人のキャラも含めてそれぞれの答えを紹介し、その中で見つけた僕自身の答えも2つ紹介する。

◼️CASE1「バイト先のチャラモテ大学生の答え」

まず1人目はバイト先で仲のいいチャラモテ大学生Kくんの答えである。まずKくんはハエが止まって流れる重い空気を払拭するため「うわ!ハエ止まったやん!ハエもお腹すいてたんじゃね!?」とテンション上げ目で冗談を飛ばしその場の空気を軽くするという。そして「てかそれ食べれないっしょ?おれ全部食っちゃうわ!」と一気に料理を食べて「お腹空いてるっしょ?食べ歩きいかね?」と女の子を気遣い次の提案をすることでこの場を切り抜けるという。

感歎である。さすがはモテ男といったところだ。まずその場を軽くするための冗談「ハエもお腹すいてたんじゃね?」がキャラに合っているしパッと考えたとは思えないナイス角度である。そして続いての「おれ全部食っちゃうわ!」というのもKくんのキャラだからできる解決の仕方だし、女の子の気持ちになると気まずくて恥ずかしい気持ちをパッと明るくして思わず笑ってしまうような心強さがある。そしてなんといっても最後の「お腹空いてるっしょ?食べ歩きいかね?」は次の予定を提示し関心をその場から外し、同時に彼女のお腹のスペースも埋めるという見事な締めくくりである。眼鏡をかけ喫茶店男子的なスマートさ・温厚さを売りにしている僕のキャラではできない部分も多いが「その場を軽くする冗談をいう」「次の提案をする」というのは取り入れられる。いかようにも素晴らしいと言わざるを得ないだろう。

◼️CASE2「チビでちんちくりんな見た目だけど、優しさ・スマートな気遣いで彼女を絶やしたことのないモテ同期芸人の答え」

項タイトルにある通りそのような男Gちゃんの答えだ。まずGちゃんは「あハエ止まったね」とその事実をさらっと流し「よかったらおれの半分食べな」とすすめるという。そして2人食べ終えると「その分ちょっとお腹空いてるからさ、デザート食べ行こうよ」と次の提案をし、「今回ハエ止まっちゃたからさ、また2人で美味しいもん食べ行こうよ」と次のデートの約束を自然に取り付けるという。

こちらも感嘆である。全ての流れがスマートで彼女を絶やさないのも頷ける。一つ一つ見ていこう。まずKくんとは対照的にハエが止まったという事実は「あハエ止まったね」とさらっと流すという。慌てずに余裕を持って空気を支配する王者の貫禄すら感じる対応の仕方である。そして「よかったらおれの半分食べな」これもKくんの全部食べちゃうという対応とは対照的で分け与えるという処理の仕方。とてもスマートで優しさをかんじる。そして「その分ちょっとお腹すいてるからさ、デザート食べに行こうよ」これはKくんの「食べ歩きいかね?」と、デザートと食べ歩きというキャラの違いこそあれ同じ対応だ。やはりモテ男には共通点がある。次を見せることで、その場を過去にするというのは必須のテクニックらしい。そしてここがGちゃんの白眉と言っていいと思うのが「今回ハエ止まっちゃたからさ、また2人で美味しいもん食べ行こうよ」と次のデートを自然に取り付けるという部分。それを聞いた時、あまりの発想力・アクロバットにぼくは驚きを隠せず「すげえな」と吐息交じりの声を上げていた。それに対しGちゃんは僕の顔をフッとみつめ「ピンチはチャンスだからさ」とさらっと言ってのけた・・・。Gちゃんの答えは眼鏡をかけ喫茶店男子的なスマートさ・温厚さを売りにしている僕からしても取り入れやすい対応だった。

◼️CASE3「カルチャー加藤くんの答え」

両人のモテ男の答えを加味した上で僕の答えはこうだ。まず「うわっ、ハエ止まったねこんなことあんだ 笑」と朗らかに言ってその場を軽くし、「よかったら、おれの半分食べな」といって分け与え、「てかお腹ちょっと空いてるからデザート食べ行こうよ、ケーキ美味しい喫茶店あるんだ」と次を提案する。そして「ハエ止まっちゃったからさ、また今度美味しいもの食べ行こうよ」と次のデートを自然に取り付ける。これだ。ほぼGちゃんである。そこは恥ずかしいと言わざるを得ない。ただこれが僕なりの答えである。

とここで皆様は答えも出たし終わりかなと思っているのではないだろうか?実はもう少しこの話は続く。↑の答えはあくまで1つ目の答えだ。皆様お忘れかもしれないがこの話には僕なりの2つの答えがあると書いた。これとは全く違う答えがもう1つあるのだ。「じゃあはよ言えや、もったいぶんなやカス」と言わないで頂きたい。とりあえずもう1人の友人の答えから紹介しようと思う。

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◼️CASE4「温厚で優しいがモテない同期芸人の答え」

モテないと言い切るのも身も蓋も無いと思うのだけど、このIくんの答えを聞いてもらえばどんな人かわかっていただけると思う。ズバリIくんの答えは「見て見ぬふりをする」だ。続いて「女の子の方から、なんか言って欲しいな」という。

ひどい。これはひどい。びっくりするほどひどいと僕は思った。料理に虫が止まって一番恥ずかしくて気まずいのは女の子の方だ。カップルではないにしろ2人だけの空間を共に作り上げている最中だというのに、Iくんはそれを放棄するだけでは飽き足らず、責任はお前にあるんだぞとでも言うかのように「女の子の方から、なんか言って欲しい」と言ってのけたのである。Gちゃんのアクロバットとは真逆の意味でアクロバットを見せつけられた僕は「いやそれはひどいよ、、、Iくん、、、投げ出すってこと?」と呆れ果てた態度で侮蔑の目線をくれてやった。もうこれ以上こいつの意見を聞いていても時間の無駄。ひどい男もいたもんだと完全に諦め、話を切り上げようとした時Iくんがこう言ったのである。

◼️CASE5「カルチャー加藤くんの2つ目の答え」

「てかもうその2人終わってんじゃない?(初デートでハエが止まる時点で)」

ぼくはハッとしたのである。このIくんの意見が妙に説得力をもって腑に落ちたのだ。ぼく、そしてチャラモテ大学生Kくん、Gちゃんはどうやってその場を切り抜けるかを考え続けてきた。ただ一歩下がって外側から見てみると、初デートでしかも食べている途中、しかも自分ではなく女の子の方にハエが止まりトトトと歩いて、飛んでいく。そんな不運が降りかかる2人はもうその時点で終わっているのでないか。わかるのだ。さらに考えていくと初デートで自身の料理にハエが止まる女の子はある意味、その女の子は悪くないのは百も承知で、取るに足らないしょーもないやつ感があるのだ。店側も、自分も、女の子も悪くない。その悪者がいない状況が逆に、解決し得ない絶対的な終わりを感じさせる。そしてえも言われぬ怖さも感じる。この意見に関しては人によって「いや全然わからないわ」という方もいると思うが、僕の2つ目の答えは「ハエが止まった時点で、2人は終わっている」である。

◼️おわりに

ということで「初デートで女の子の料理にハエが止まったらどうするか?」でしたがこの問題はそれぞれのキャラが出て面白いのでこれからも聞いて周ろうと思います。みなさんだったらどうするでしょうか?なにかしらで意見寄せていただければ幸いでございます。思ったより長くなっていまいましたが、最後までお読み頂いた方、ありがとうございます。穂村弘さんLove

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↑(穂村弘さんのオススメのエッセイその2)